待ち合わせは完全に遅刻だった。
風呂敷の包みを抱いて、炎天下の中駆け足で階段を上ったら、鳥居の下、あの人は立ったまま本を読んでいた。
「お待たせしました」
息をはずませて言うと、ぱたん、と長い指が本を閉じる。
古い詩集だった。
「いいえ、待っていませんよ」
「嘘」
優しい嘘に、思わずなじる声が出た。
けれど彼は笑うだけ。
「本を読んでいる間は、待っているとは言いませんから」
それが彼の論理らしかった。
渇いたでしょう、と渡されるのはペットボトル。
封の開いたそれを、突き返すのも子供のようで、出来なかった。
「……あんやと」
わざと小さな声で言って、透明なそれをを傾ける。
揺れながら、溶けていく命。
溶けていくあなた。