それは腹を空かせたオオカミが、ひっつき虫をその肉球で踏んだとき。 やってらんないぜと思っている頭上ではヒバリの歌。 あまりに陽気で美しかったから、彼は八つ当たり気味に聞いたって。 「何がそんなに楽しいんだ!」 ヒバリはヒバリ。答えも歌うようだったって。 「いいえいいえ何一つ涙一つ。楽しいことなどありはしませんこのセカイで!」 何を言うかとオオカミは思った。腹を空かせて苛々していたんだな。 「そんなことがあるものか! 楽しくもないくせに、陽気な歌など歌えるか!」 「あらどうして、あら何をおっしゃるのかしらオオカミさん!」 答える声は、やっぱり綺麗な歌のよう。 「今わたくしが歌っていたのは、セカイの終わりとこの世の終わりと季節の終わりとも一つおまけで命の終わりについて! それを陽気にメロディアスに!」 オオカミは乾いた顎を筈さんばかりに驚いたってさ。 「あきれた君は気が狂ってる! 陰気な歌はもっと陰気な声で歌いたまえ!」 ヒバリも負けずに叫んだこと。 「何故何ゆえに何のために!? あのイチジクは腐って落ちて、もの悲しくも夏を彩るヒグラシは、七日の命を燃やし尽くすこの時に、この時に!」 「この時に!」とオオカミも反復したのさ。心の中ではこう続けて。俺の腹の減っているこの時に! 「そうこの時に! 歌わずにはおれません、どこまでも陽気に、どこまでもメロディアスに!」 そしてヒバリは羽ばたき。旋回。指揮棒を振るうマエストロ! 「歌うしかないのです。最早歌うしかないのです。絶望に羽を。この暗闇よ歌へ、歌へ!」 そうしてヒバリはあかつきに消えたから、オオカミは一歩踏み出してみた。それこそひっつき虫のついた足で。 遠吠え一つ。 空腹の嘆きの声一つ。けれど出来うる限りに陽気に一つ。 貧弱な声に腹がふくれることはなかったが。 彼は一つ呟いたって。 「絶望にこそ羽を」 そうして、この空腹さえも歌へ、うたえ。 |