壊れ物の身体と心を騙していくのが生きていくということだ、とわたしに言ったのは、同じつながれもので、まじりもののジュナだった。
半ば捕らえられるに近い形で革命軍に合流したわたしは、同じく奴隷出身のジュナの監督のもとに置かれることになった。
いかなる拷問も覚悟していたわたしに、ジュナが最初に与えたのは、絹の毛布だった。
薄暗い洞窟の奥にはあまりに不似合いな、天蓋の中のことである。
花というには甘すぎるにおいがこもっていた。ヴァルの獣の鼻はその中から、ほんのわずかの、複数の人の体液のにおいを感じていたが、絹の毛布は雪のようにすべてを覆い隠した。
煙管に火をいれたジュナがぽつりぽつりと語ったのは、彼女がどのように虐げられて生きてきたのかという話だった。壮絶で、陰惨な物語ではあったが、呼吸のように自然で、歌のように穏やかだった。わたしがそう言ったならば、ジュナは目を細めて。
「うたは知っている?」
とわたしに聞いた。歌というものは知っている、とわたしは答えた。わたしを雇った商人は、人の才に価値を見いだす人であったから。けれど、ひとのうたう歌ではない、とジュナは言った。
「つながれもののうただよぅ」
ジュナはそれを、かつて娼窟で、同じくつながれものの娼婦から教えられたのだという。
「彼女はもう、死んだけれど」
うただけは、あたシの中に生きている、とジュナは言う。それをあんたに教えてあげる、とジュナの爪がわたしの頬をなでた。
「だからねぃ、エィハ」
あんたは、あたシよりも、長く生きてちょうだいねぃ。
わたしはその言葉に応えることが出来なかった。長く生きるということに価値を見いだしてもいなかった。自分が遠からず死ぬことは知っているし、それでも今、生きていることは知っているから。
それ以上を、求めて何になるの?
わたしの問いに、ジュナは可笑しそうに笑った。青い爪で、わたしの胸を掻くようにして。
「うたは、震え」
穏やかに、わたしの肩に頭をあずけて。まどろみながらジュナが言う。
「命が震えることだけが、生きているって、ことだからねぃ」
そうして彼女の、艶めいた唇がうたい出す。命が溶けるような濃厚なうたであり、灯火のようなわずかな震えである。
清流よりも美しく、
薬よりも甘美であり、
魔術よりも苛烈である。
そのうたは、時にわたし達の傷を癒やし、時に神経を冴えさせ、時に肉体までもを変質させるのだろう。
生き物のなり損ないのわたし達だからこそ。
揺らぎに身をまかせ、魂を震わせることで、異質のものになり得るのだ。
「ほら」
指揮をするように煙管が揺れる。煙がふわりと中空に舞う。
「うたって」
言われるまま、彼女の声にわたしのそれをのせたら。
まるで、命が絡んでいくようだった。